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- 歯科医院の事業承継計画 — 開業10年後から考える医院価値の高め方

事業承継時に必要な医院価値算定について徹底解説!
歯科医院を長年経営してきた院長先生にとって、「いつか、誰かに医院を託す時」は必ず訪れます。しかし、多くの歯科医院では事業承継の準備が後回しになり、結果的に医院の価値が十分に評価されないまま承継を迫られるケースが少なくありません。医療業界における後継者不在率が68%という驚くべき数字からも、この課題の深刻さがうかがえます(出典:帝国データバンク「全国企業『後継者不在率』動向調査」2022年)。
今回は、歯科医院経営において避けては通れない「事業承継」について、その準備から価値算定、そして成功のための戦略まで、実践的な知識をお伝えします。
1. なぜ今、歯科医院の事業承継を考えるべきなのか
歯科医院の事業承継は、突然始めても成功しない長期戦略であり、早期から計画的に準備を始めることが成功への鍵です。事業承継とは単なる医院の引き渡しではなく、院長先生のライフプラン、スタッフの雇用継続、そして患者さんへの継続的な医療提供という多面的な課題を含んでいます。
現実問題として、承継の直前になって経営課題について相談するケースが非常に多く、何を経営の中心に据えるべきか、何から準備を始めるべきかという具体的な対策を講じられないまま時間だけが過ぎていくという状況が少なくありません。
歯科業界における売上規模の現状を見ると、年間売上8,000万円を超える歯科医院は全体の20%弱、1億円を超える歯科医院は10%程度に過ぎません。売上規模が全てではありませんが、価値算定、つまり「いかに売りやすく、承継しやすい状態にするか」という観点からは、売上規模が大きいほど買い手にとって魅力的に映る傾向があります。売上規模上位2割に入るクリニックの先生方は、マーケティング、人材育成、財務管理など様々な分野に対して明確な課題意識を持ち、積極的に対策を講じることで医院の価値を高めています。
2. 歯科医院の「本当の価値」を知る:価値算定の重要性
歯科医院の事業承継成功において、客観的な価値算定は最も重要なプロセスです。事業承継・売却の流れの中で、デューデリジェンス(詳細調査)が重要な要素となりますが、より早い段階でご自身の医院の価値をある程度把握しておくことが大切です。内部環境(スタッフのスキルや経験、組織体制など)、外部環境(競合医院の状況、地域ニーズの変化など)も把握することで、1年後に売却するのか、3年かけて医院の価値を高めてから戦略的に移行するのかなど、具体的な計画を立てることができます。
価値算定には、ハード面とソフト面の両方から評価する必要があります。ハード面としては、業績(売上高、利益、キャッシュフローなど)、資産(現預金、不動産、医療機器など)、負債(借入金、未払金など)があります。ソフト面としては、ブランド力(医院の知名度、評判、地域における信頼度)、人材(優秀なスタッフの存在、チームワークの良さ)、患者層(患者さんの数、年齢構成、疾患構成)、診療内容(専門性の高い治療、先進的な医療機器の導入)、立地(駅からの距離、周辺環境、競合医院の状況)などが挙げられます。
院長先生が変わると売上が減少する傾向があるため、自費率が高く院長先生の技術に依存している場合は売上の減少幅が大きくなる可能性があります。一方、メンテナンス患者数が多い場合はリピート率が高く離脱リスクが少ないと判断されるため、価値算定においてプラスになります。適切な価値算定を行うことで、承継交渉を有利に進めることができるのです。

3. 事業承継の成功への道筋:価値を高める経営戦略
歯科医院の価値を最大化するためには、承継を見据えた戦略的な経営改善が必要です。事業承継・M&Aを行う時期について具体的なイメージを持つことが重要です。それによって、売上目標、利益目標、個人の資産設計が変わってきます。5年程度の計画を立てることで、価値を下げない状態でクリニックを売却できます。個人資産の設計も重要であり、事業承継を行う年齢を明確にして、戦略的にクリニックを譲渡していくことが大切です。
経営改善の流れとしては、まず「分析」として強みや経営環境を把握し、次に「目標設定」として理想の将来像を描きます。その後、「戦略策定」として目標と現状のギャップを埋めるための計画を立て、最後に「実行」へと移ります。理想の将来像だけでなく、現状把握も重要です。目標があっても現状把握ができていないと、課題の質が低くなります。目標設定と現状把握を行うことで、何を準備しなくてはいけないのかが明確になります。
マーケティングを通じた情報発信とブランド構築、明確なミッションステートメントとビジョンの設定、そして経営環境の分析と目標設定に計画的に取り組むことで、承継時の交渉力を高め、理想的な条件での事業承継を実現することができます。

4. 出口戦略としての事業承継:院長先生の将来設計
歯科医院の事業承継は、医院の未来だけでなく、院長先生自身の人生設計という側面も持っています。明確な「出口戦略」を立てることが、医院と院長先生双方の未来を守る鍵となります。
歯科医師には定年がないため、引退時期や引退後の生活設計が曖昧になりがちです。特に医療法人では、簡単に資産を引き出せない制約があるため、早めに資産形成を行う必要があります。定年がない歯科医師の場合、出口戦略を明確に設計していくことが重要です。
事業承継・M&Aを行う時期について具体的なイメージを持つことで、売上目標、利益目標、個人の資産設計が変わってきます。5年程度の計画を立てることで、価値を下げない状態でクリニックを売却できます。個人資産の設計も重要であり、事業承継を行う年齢を明確にして、戦略的にクリニックを譲渡していくことが必要です。
歯科医院の事業承継は、医院経営の終わりではなく、院長先生の新たな人生の始まりでもあります。承継時期、承継方法、そして承継後の生活設計を含めた包括的な出口戦略を立てることで、医院の価値最大化と院長先生の安心な将来を同時に実現することができるのです。
5. 事業承継の成功に向けた具体的なステップ
歯科医院の事業承継を成功させるためには、体系的なプロセスと専門家のサポートが不可欠です。事前準備から最終的な引継ぎまで、各ステップを丁寧に進めることが重要です。
事業承継・売却の全体の流れは複数のステップから成り、それぞれの段階で適切な対応が求められます。現状として、事前の準備期間が十分ではないケースが多いのが実情です。売りたい方と買いたい方の考えていること、価値の感じ方が異なるため、なかなかマッチングしないという問題も起こりえます。
事業承継・売却の流れとしては、まず「事前検討」として現状把握と目標設定を行います。医院の現状を正確に把握し、どのような形で承継・売却したいのか、具体的な目標を設定します。次に「価値算定」として、医院の客観的な価値を評価します。その後、「マッチング」で最適な相手を見つけ、「交渉」で条件を詰めていきます。「デューデリジェンス」では買い手側が医院の財務状況などを詳細に調査し、「契約締結」で合意内容を文書化、最後に「クロージング」で引継ぎを実行します。
できるだけ早い段階から現状把握を行い、ご自身のクリニックの価値を把握しておくことが非常に重要です。そして、その価値を最大限に高めるために、どのような戦略を立てるべきかを検討していくことが、成功への鍵となります。
